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戦争はいかに「マンガ」を変えるか -アメリカンコミックスの変貌-

戦争はいかに「マンガ」を変えるか―アメリカンコミックスの変貌
小田切 博 (著)


ずいぶん前に買った本で、感想書こうかと思っていたのに忘れていました。
こんなタイトルだけど、アメリカンコミックスについて語った本です。
(一応副題で「アメリカンコミックス」と出てはいますがわかりにくいですね)


タイトルにあるように、この本の主題は第二部。
9.11テロ(戦争)がアメリカンコミックスに与えた影響について。

タイトルが「アメリカンコミックス」ではなく、「マンガ」とわざわざしているのは、この本が「アメリカンコミックスの本」ではなく、世に多く出始めた「漫画評論研究本」と同じ流れにある本の一つであることを目指してのものだからだろう。
本編でも何度も他のマンガ研究本への比較や反証が含まれている事からも明らか。
テーマは『マンガの発展や変化は個人の内面からだけでなく、外から(社会から)の影響で変質する』みたいかことかしらん。その最大の影響力をもつ社会変化が「戦争」。
だからその最大の変化を近年において測定可能の位置にあり、観測し続けられた素材こそが「アメリカ」であり「アメリカンコミックス」であり、「アメリカンコミックス界」にすぎなかった。(というと乱暴かな)

実際、9.11によってアメリカンコミックスアーチストは変わる変わらざるという自分の意志以上に「変わらざるえなかった」という事実。

とまあ、この戦争とマンガのマンガ論が主題なんだとは思うけど、そこでこういう本が日本で出る事の最大の障害がまさに「日本でアメリカンコミックスを題材にして語ること」なんですねえ(笑)

なにしろどんな論説を出そうが、その素材がアメリカンコミックスである以上、日本の漫画評論研究者がだれもその議論の場に上れないという現実。知らないものは「ほうそうですか」って言うくらいで、論議にならんものなあ。

そこで、第一部ですよ!
みなもと太郎が幕末を描くために、延々戦国から江戸時代を描かなければいかねかったのごとく、日本でアメコミを語るには、まず「アメコみとは何か」から語らなければいけないんですよ。
それが第一部。まず本の1/3を使ってでも論説の意図が通じる程度には基礎として解説しなければいかなかったということですね。漫画だと言わなくても共通認識として省略できる部分。

作者にはもうしわけないけど、ここが一番おもしろかった(笑)
アメコミに興味があるのならここだけでも読む価値あり。
歴史を追ってアメコミの変化と発展と現状を語ってます。

むしろ、別々にして、「アメコミとは何か解説本」と「マンガ論本」を別々に出してほしかったなあ。しかし、上記のように日本でアメコミ本を出せる事自体が奇蹟に近いので、このチャンスに一気にもてるものぶち込むしかない!!!てな気持ちがあったんだと思うけど。

ただ、「このアメコミとは何か」が難しい。
この第一部でも作者自らしょっぱなからぶっちゃけてます。
「アメリカンコミックス語れるやつなんていねえよ!!!」

いくらX-Menを深く語ろうと、マーベル作品の多くはユニバースで繋がっていて、ひらたくいえば巨大なたった1本の作品にすぎない。近いのはアレかな。マンガを語ると言いながら「松本零士」ただ一人の作品しか語っていないみたいなもの。

もちろん作者自身もそんなアメリカンコミックスを他の人より多少は知識あるものの、全部まとめて語れねえし、わかんねえよ!みたいな感じで、とりあえず得意分野のヒーローコミックスを中心に解説しています。それだけでも大変ありがたいんだけどね。

この本で知ったのが「コミックスの子供離れ」、「オタク市場に特化したアメコミ業界の現実」など。
その後自分でも情報を集めて、どうやらそのようだと確信を持ち始めました。
ただ、(この本でも述べられていますが)子供用のコミックスは存在します。
ニコロデオンマガジンに載ってるコミックなんかそう。
しかし、この辺のコミックって日本はもとよりアメリカですら「コミックス」として語られることはまれ。むしろコミックとして認識されていないと言ってもいい。
だからこのへんの情報を入手するのって大変なんですよ!!(あ、俺の叫びが

そうだ、「コミックスコード」についての誤解も興味深かった。

「コミックスコードのためにコミック業界はほとんど壊滅状態に陥った」というのはいわば一種の神話であると。
確かにこの時期に規制・弾圧されたのはコミックスだけでなく、TVや映画その他ほとんどのメディアがそうだった。コミックスだけがそのために衰退したというのも変な話だというのもうなずける。
とは言っても、自転車操業でやってる吹けばとぶような出版社とTV映画業界と比べるのは酷かなって気もするけど。

それでもそこをしのげばきっとなんとかなったかもしれない。しかし、そこで起死回生の「ダイレクトマーケット」というすばらしい手法が成功してしまった事が、逆に一般との接点を無くし、いびつな高成長とジャンルの特化を生んだという考えは、現状を認識するのにはわかりやすい。

そうそうこの「一般との接点が無くなった」というのも問題で、このせいでアメリカ人ですら日本人とたいして変わらないアメコミに対する偏見や無知が蔓延してるってとこ。
アメリカ発の文章でも間違った認識で語られることの多い事。鵜呑みにするとトンデモナイことになります。ほんと困るわぁ。

かなり脱線しちゃった(笑)

とにかく、この本はアメコミ「解説本」ではなく「論」なので、論説と結論に対して人によっては受け取り方は違うだろうけど、その論に加われる程度の基礎知識は得られるので、その点はマジオススメです。

本当はこういうのは多角的に検証認識すべきなので、他の人からももこのたぐいの本が出るのが望ましいんだけど・・・ジャイブからももう翻訳本がまったく出なくなってる今、難しそうだなあ。

それに最近の傾向をみてると、コミックスとマンガの比較論は日本よりアメリカあたりから良書が出そうな感じ。日本だと日本の漫画しか語れない人は多いけど、向こうのマニアとか研究者はどっちも読んでいるからね。

あと、他にもこういう本が・・って思うのは、ちょっとこの本「重い」んですよ。
こういうのを知的娯楽としてとらえられる人はいいけど、人によっては読み進めるのがキツいとこあるかも。
「アメコミをキャラ読みで読む」みたいな軽くてバカバカしくてとっつきやすい簡単な本もどっかで出てくれないかなあ。あとインディーズの方もフォローしたものとか。雑誌でもいいかなー。でも、それならむしろカートゥーンの雑誌でないかなー。


ああ、無い物ねだりばっかり!!!
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コメント

VicIsono:
かの有名な箱男さんの著書ですね。
著者のwikiに補足がありますよ。
http://www4.atwiki.jp/longboxman/

アメリカのコミック業界の不況って、日本の80年代後半の
「アニメ冬の時代」と全く同じだと思うんですけど。
「ダイレクト・マーケット専門作品」は、OVAみたいなもんで。

コミックの検閲の歴史については、ここらへんの記事が詳しいです。
http://www.weeklywire.com/ww/09-08-98/alibi_feat2.html
コミックブックショップには、定期的に警察の手入れがあるんですよ(笑)。
やっぱり、こう・・・社会性のない変わり者の店主が趣味が高じてやってるみたいな
あんまし女性が気軽に立ち寄れるような場所ではないイメージ?
スカポン太:
>「ダイレクト・マーケット専門作品」は、OVAみたいなもんで。
うまいこといいますね。
需要と供給の関係はたしかにそれに近いですね。

コミックブックショップはいろんなタイプがありそうですが(特に都会ではもう少しスマートかも)、確かにそんなイメージは強いですね。

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